東京電力福島第1原発にたまる処理水の海洋放出に向け、岸田文雄首相が20日に同原発を視察するなど政府による準備が着々と進められている。一方、漁業関係者らからは「地元への説明はないのか」「ごり押しだ」と反発の声が聞かれた。地元の不安を解消しないまま放出は断行されるのか。 

 視察を終えた首相は記者団に「海洋放出は廃炉と福島の復興を進めていくために決して先送りができない課題だ」と強調した。  

だが、視察先は第1原発敷地内で、意見交換も東電幹部と行ったのみ。地元の漁業者らの話を聞くことがないまま帰途に就いた。  「まず地元の漁業者に説明すべきではないか」。

福島県いわき市にある江名漁業協同組合の加沢喜一郎組合長は憤りを隠さない。  

同県漁業協同組合連合会は水産物の放射性物質濃度について国より厳しい基準を設けて市場に出さないように努めてきた。加沢組合長は「風評が出たらこれまでの努力も水泡に帰してしまう」と不安を漏らす。  首相は2021年の衆院選、22年の参院選とも福島市で第一声を上げ、「東日本の(被災地の)復興なくして日本の再生なし」などと訴えていた。「聞く力」もアピールしているが、海洋放出について福島県民と直接対話する機会は乏しかった。

 この日、記者団から「(処理水について)関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と漁業者と約束していることについて問われた首相は「政府を挙げて地元の漁業者に丁寧に説明を重ねてきた。風評や生業の継続への懸念に継続的に寄り添って対応していくことが必要だと考える」と述べるにとどまった。

 その上で、全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長らと21日に面会する方向で調整していることを明らかにした。  

 いわき市で刺し網漁などを営む漁師の今泉学さん(44)は「正直、やっぱりなという思い。寄り添うという言葉だけで誠意が感じられない」と憤った。  

海洋放出方針が決まった21年春の政府や東電の説明会では漁師の気持ちをくむ姿勢がみられたが、数カ月後には工事の段取りの説明に変わった。今泉さんは「それ以来、何を言っても強行するだろうとうすうす感じていた」と嘆く。  

 風評の影響は福島県の漁業者だけにとどまらない可能性がある。  

同県相馬市でスーパーを営む中島孝さん(67)は「国は『丁寧に説明する』と言うが、これではごり押しだ。何か起きた時に被害を受けるのは地元だ」と指摘。原発事故後、地元産の魚への懸念や買い控えが広がるのをヒシヒシと感じた。「東電はこれまでも汚染水対策に失敗している。何十年と続く処理水放出でも同じことが起きかねない」と話した。  

 同県二本松市で有機農業を営む菅野正寿(せいじ)さん(64)は「関係者は漁業者だけではない。十分な説明がなく、県民を無視している」と政府への不満をあらわにする。首相の姿勢についても「福島の現状を理解しているようには思えない」と批判した。

 茨城県内の漁業者の男性は「首相が第1原発を視察しても漁業者の同意なしに放出はできないはずだ」とけん制。「政府が強硬に放出を決めれば漁業者との約束を破ることになる。燃料費が高騰する中、風評被害も重なればわれわれは漁業ができなくなってしまう」と訴えた。-毎日新聞8/20より-

 聞くチカラはどこにいったのか、と言いたくなる総理の暴挙。

政府が強引になんでもやってしまう政治は大陸の例の3国と同じだろと言いたい。